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社会的な会社でありたい。Spiberが目指す、幸せに生きる世界。

Spiber株式会社 / Spiber株式会社/看護師 ・准看護師 ・ 保健師 ・ 助産師

インタビュー記事

更新日 : 2023年08月31日

山形県鶴岡市に本社を置くSpiber株式会社(以下Spiber)。繊維や樹脂、フィルムなど、様々な形態の材料に加工することができ、多様な用途への活用が期待されるタンパク質素材「Brewed Protein™️(ブリュード・プロテイン™️)」の研究開発を行い、まさにゲームチェンジャーとして世界的に注目を集めている企業だ。最先端の研究を行い、グローバルに活躍するなどというと敷居が高いようにも見えるかもしれないが、働く環境、生活する環境を整えるという、社員のモチベーションをあげる活動にも力を入れている。今回は、執行役の蓑田にSpiberの全体像を、管理部門とSpiberが運営する企業主導型保育所(やまのこ保育園)で働くふたりにSpiberで働く魅力を聞いた。

Spiber株式会社 事業概要

新バイオ素材の研究開発および製造を主事業とする会社。設立は2007年。サイエンスパーク内にある慶應義塾大学先端生命研究所の冨田研究室に所属していた関山和秀らによって設立された。主原料を石油に頼らず植物資源をベースに微生物発酵プロセスにより作られるタンパク質素材「Brewed Protein™️(ブリュード・プロテイン™️、以下Brewed Protein)」は、環境負荷軽減を始めとする大きな社会的価値を創出し得る新素材として世界的に注目を集める。現在、タイにBrewed Proteinの原末を生産する量産工場が建設され、2021年内に同原末の商業生産開始を予定している。そのほか、さらなる量産化を見据えアメリカにて、タイの10倍程度の生産規模を見込んだ工場の準備が進められている。今後、アパレル用の繊維のほか、樹脂材料や次世代軽量複合材料、医療用材料への技術応用が考えられ、その需要はさらに高まるとみられている。

環境負荷の少ない夢の繊維を開発

これまで各国の機関や企業にて研究開発はされてきたものの実用化には至らなかった人工タンパク質素材。それを微生物発酵によって、さらには分子設計により高効率な生産を実現したのがSpiberだ。ときに「夢の素材」などとも称されるこの素材は、主原料を石油資源や動物素材に頼らず、植物由来の糖類を使用し、用途に応じて多様な特長を付与することが可能なため、持続可能性の高い次世代の基幹素材としてさまざまな分野へ応用が期待されている。

ブリュード・プロテイン™と各種加工工程で得られた素材の例

「最先端の研究開発を行うバイオベンチャー」として、その技術や研究成果とともにSpiberはさまざまなメディアで紹介されてきた。そのため、実態をよくわからない人から見ると 「すごいことをやっている人たちがいるな」とどこか他人事のように、もしくは敷居が高いといったように捉えてしまうこともあったかもしれない。しかし、会社の根本理念を聞くと、ものすごくシンプルな言葉がでてきた。話を聞いた執行役の蓑田正矢はこう話す。

「私たちが目指すのは、幸せに生きる、ということです。まずは自分たちが幸せになることを考えてみる。そのためには、他人も幸せになるべき。そして、それを実現するためには、私たちが生きる社会をよくしていかなくてはいけない。人類社会のWell-beingとでもいうものを目指しています。それが持続可能な形で実現できればと思っています。いま自分たちができることと社会の要請をマッチさせていく。そういう意味では、Spiberは社会的な会社だと思っています」

たしかに、Spiberの事業概要の話を聞いたときも
「動物由来の素材は、生育、製造の過程で大きな温室効果ガスを排出しているとされている。僕たちの事業が軌道にのれば、温室効果ガスの減少にも貢献することができると考えている」
「この素材を例えば自動車の部品に活用していく。同じ性能でも軽い部品ができれば自動車の燃費を向上させることができ、結果的にエネルギー消費量を削減していくことができる」といったように出てきたワードは「環境負荷を少なくする」というものだった。

「会社としての強みはもちろん技術力です。分子からデザインして、どういうタンパク質を作るか、そして素材化までのすべてを社内でやっている、内製化しているからこそ、フローごとの相互作用がわかりやすい。研究や開発の情報を共有できるので、個別最適ではなく、全体最適することができるのです。一般的には分野ごとで企業毎に分業化されており、相互の情報共有は企業機密もあるため一定程度で止まってしまいます。それらをひとつの財産として共有できるのも、当社の大きな強みです」

蓑田はこう話した。そうして研究を続け実用化にこぎつけたのだ。アパレル企業からのオファーも多く、有名ブランドやデザイナーとのコラボ商品が生まれた。「今後は研究結果を社会へ還元していくフェーズ」と蓑田が言うように、前述の通りタイにBrewed Proteinの原末を量産化する工場を設立し、2021年内には同原末の商業生産開始を予定している。そのほか、アメリカの工場でも本格的に生産する準備も始まっている。

(左)2021年秋冬パリオートクチュールファッションウィークにて、デザイナー中里唯馬氏主宰のブランド「YUIMA NAKAZATO」がブリュード・プロテイン™を使用したコレクションを発表
(右)ファッションブランド「sacai」との協業製品。ブリュード・プロテイン™とコットンの混紡

株式会社ゴールドウインとの共同研究開発による商品。構造タンパク質を使った世界初のアウトドアジャケットMOON PARKA

チャレンジすることが楽しい

蓑田はSpiberという組織の特徴を「オープンである、フラットである、そして主体性を重んじる」と話す。

「チャレンジをしたいという声は多い。そのために情報開示をできる限りしています。例えばストラテジーミーティングという、今後の方針などを話し合う会議があるのですが、これは現在はオンラインで開かれていて、全社の誰が参加してもいいんです。」

会社内における開発の進捗状況から、販売先の候補といったことから、資金調達も含めた経営戦略などを報告し、議論する場がストラテジーミーティングだ。その会議に、全社の誰でもが参加できるのだ。全社の状況を知ることで、自分のやるべきこと、できることを把握し、次の行動に活かしていく。自身が主体的に会社と関わることで、他者や環境を見つめる視点を持つようになり、自己完結しない、つまり、多様性を許容しながら、自身の指針を作っていくというクリエイティブな行為として反映されていく。

やまのこ保育園もコロナウイルス対策を含めて、今後どのように会社が対処していくのか、そのなかでやまのこ保育園はどうあるべきなのかを考え、行動を起こすためにこの会議にメンバーが定期的に参加し、対応を検討していたという。

また経営管理部門の人事セクション労務チームで働く石川美咲(2021年6月からは財務も担当)は違った視点からこのミーティングのことを話す。

「労務という仕事の性質上、人と関わる機会は多いのですが、実はその人が実際どんな仕事に携わっているかの理解はあいまいなところもありました。それがこのミーティングに参加することで見えてくる。この人はこの時期はこんな仕事をしている。だから負担が大きくなっているんだ。と、具体的に人と仕事が見えてきたことで、各部署の業務や人のイメージが鮮明になり、労務の業務がぐんとやりやすくなりました」

石川は庄内の高校を卒業した後に関東で就職をした。のちに地元である酒田に戻ってきて就職し働いていた。そんなある日、Spiberのことを特集したテレビ番組を見た。

「地元に世界規模の目標を持って事業を展開している会社があるのかと、驚いたのを覚えています。最初はすごいなという感覚で見ていましたが、同時に挑戦してみたいという気持ちも湧き、応募を決意しました」

石川は面接で聞いた取締役兼代表執行役の関山和秀の熱い想いにも心を動かされて入社を決意したという。しかし、話を聞くと石川のもつ価値観とSpiberの価値観はそもそもリンクしていたと思えてくる。大切にしている想いはどんなことかという質問に石川は「そうですね・・」と少し時間をおいてこう答えた。

「自分が幸せであること、ですかね。でも自分だけ幸せになるというのは不可能。相手のことも大事だし、みんなが幸せであってほしい。そんな想いでしょうか。いまこうして思うと、仕事に関してもそんな気持ちがあるのかもしれません。労務という仕事は、みんなが仕事に取り組みやすい環境を作るということだったりもするので」

入社当初から労務チームに配属され、同じセクション内の別チームとの関わりもあるのはもちろんだが、経営管理部門という仕事上さまざまな部署と関係する。「そうやって多くの人と関われるチャレンジも楽しい。わからないことも出てくるし、まだまだ日々挑戦ですが、社員のみんなが集中できる環境を作れるようにがんばりたいと思います」と言う。

「今やりたいことは、様々な数値や情報を入力すると、簡単に答えが導き出されるような仕組みを関数で作り上げること。単純にそういうものづくりが好きというのもあります。でもそれが結果的に業務の効率化につながり、みんなが働く環境の改善になると思うので。Spiberは柔軟な考え方の社内文化があるので、チャレンジは受け入れてくれる。だから毎日の仕事はとても充実していて楽しいです」

そういった現場から自発的にあがってくるチャレンジは会社としても応援、後押ししていきたいと蓑田は言う。情報を「オープン」にし、「主体的な意見」を「フラット」な関係で検討する。蓑田の言っていた組織の特徴がそのまま石川のやりがいにつながっていた。

自分たちが幸せである環境を作る

Spiberの革新的で社会に有用な技術を支えているのは、研究者たちだ。会社全体の6割程度が研究開発のメンバーだという。そのなかには県外や海外からの移住者も多くいる。もちろん山形、鶴岡で暮らすのは初めてというメンバーも多い。そのメンバーたちの日々の生活への視点と関わることも 「幸せ」のためには必要なものだ。とくに子育ての環境整備への要望は会社の成長に伴い大きくなっていった。

蓑田は「5年ほど前から外国籍の社員も増えてきました。そういう方々に向けた保育環境がなかなか整備できていなかったというのがきっかけで保育事業を始めました。いまは海外出身の方に限らず、社員の皆さんがここで住み、働きたいと思える環境を作りたいと思っています。これも同じようにサステナブルな環境を作ることが大切だと考えています」と話す。

そうしてSpiberが自主運営としてスタートしたのが、やまのこ保育園だ。2017年に内閣府が主導する企業主導型保育事業により0−2歳児対象の「やまのこ保育園home」を開園。2018年には就学前までの児童を対象とした「やまのこ保育園」をヤマガタデザインが運営する教育施設KIDS DOME SORAI内にも開園し、2園体制で運営しており、現在は社員の子どもだけでなく、地域からの入園希望、受け入れも拡大している。

やまのこ保育園では生活のなかのさまざまなことを、子どもたちが自らの意思で選び、取り組むことを目指した保育をしている。暮らし=探求と位置づけ、子どもたちの探求心に対して大人は「答えを出さない(探索しつづける)」という姿勢を大事にしている。また、子ども同士の育ちあいも重要視しており、異年齢での保育環境を構成することで多様性を学びお互いを認め合い育ちあう環境を大切にしている。

現在やまのこ保育園homeで0歳児を担当する村田優里花も就職する際に「大人が与えるのではなく、子どもが主体になって考えるという方針にとても魅力を感じました」とその保育の考え方に共感したと話してくれた。続けて村田は「やまのこ保育園は、毎日を丁寧に暮らしていきたいと考えている人にはとてもいい保育環境ですし、それは保育士にとっても同じです」と言う。「毎日を丁寧に」というのは、Spiberの掲げる「幸せに生きる」という理念に「いまを」という言葉をつけたものではないだろうか。保育目標には「いまを幸福に生きる」とある。それができる人を育むのが、やまのこ保育園の理念なのだ。

また、やまのこ保育園は「大人たちの成長」もひとつの大きな目標だ。保育者の成長、保護者の成長。保育者である自分たちを含めた、子どもたちを取り巻く大人たちが子どもたちの成長を阻害せず、促すようになれることも目指している。そのために保育者同士の意見交換も活発で、例えばある子どものひとつの言葉、ひとつの行動など、子どもの表現を、どのように捉え、どのように応答的に動いていくかといった大人の態度をシェアし話し合っている。

そのひとつの表れが、定期的に保護者に配布されるやまのこジャーナルだ。ときに十数ページにも渡ることもある、変化し続ける「やまのこのいま」を伝えるレポートだ。これはもちろん保育の現場で起きていることを保護者へ伝える役割も持っているが、それと同時に保育者の持つ子ども観や人間観を保護者と共有する役割、そして保育者自身が書くことで振り返り成長していくための記録でもあるのだ。子どもとの関わりの中で常に自分に問いかけ、対話をし成長し合うコミュニティであり続けることを目指す。つまり、暮らし=探求という視点は大人たちの成長にも繋がっているのだ。

やまのこに通う子ども達の日々の出来事を記した「YAMANOKO JOURNAL」

ペアレンティングクラスで保育目標と保育内容カードを眺めながら話し合う保育者と保護者たち

他にも、やまのこ保育園の特徴としては、保育者たちの子どもへの向き合い方だけでなく、保護者とのコミュニケーションにもある。その事例の一つとして、年に数回行っているペアレンティングクラスといった取り組みがある。これは子どもに関わる保育者と保護者の双方向のコミュニケーションを通して、子どもについての視野が拡がることを目的とした場で、単なる情報提供ではなく、子どもとの関わり方をシェアしたり議論している。保護者も保育者も企画から参加し、共に場を創っていくことが特徴の一つで、ここから互いに助け合ったり豊かになれるコミュニティが生まれる土壌に耕していくことも目指されている。継続的に保護者と繋がるために「つながり隊」という保護者代表(コミュニケータ)も組成され、保育者と保護者とが共に子どもを育てるパートナーとして関わり合う形を探り続けている。より良い保育・暮らしのあり方を、子どもに関わる人々、全員で学びあい創り上げていく姿がここにはあるのだ。

最後に村田に今後楽しみなことは何か聞いた。

「今季からガーデンづくりの担当になり様々な野菜やお花を子どもたちとともに育てていくことですね。子どもたちが興味を持って夢中になれる時間と空間をどう作り上げていくのが良いのか、日々悩みながら考えています」

やまのこの保育目標にある「いまを幸福に生きる」「地球に生きているという感受性」
ガーデン「食べられる庭」で自然の循環を感じながら過ごす幸せな暮らしと学びのあり方を、村田は楽しそうに話してくれた。

自分で自分を見つめる

Spiberには、受動的ではなく能動的に動くためのシステムがいくつもある。給与を自己申告で決めるというシステムも社員の主体性を重んじるSpiberならではの試みだ。自身の給与額をその理由とともに宣言するというものだ。村田はこの給与宣言制を「一般的に保育士の給料が低いというなかで、どれくらいの給料が適切なのかをじっくり考えることは自身の成長を促す機会になっています。」という。Spiberでは、保育の仕事は、未来にとってとても重要な仕事だと考えている。保育士や介護士は人間にとって重要な仕事であるにも関わらず、社会的評価が低いことに問題意識を持っている。この給与制度の取り組みを通して、新しい道を切り開いていく可能性があると考えていると言う。

ふたりともに自身の仕事を振り返るきっかけになったというが「必ずしも自己評価のためのシステムではないんです」とも蓑田は言う。

「自身の振り返りとともに、今後を見通す機会にもしてほしいということも考えていました。これから自分は会社に何ができるか、ひいては社会にどんな貢献ができるかというのを考えるきっかけにしてほしい」

自分のことを知る。そのためには、他人のことを知る必要がある。さらにいえば、自分と他人が存在する空間を知る必要がある。ミクロを知るためにマクロに目を向け、多様性に目を向ける。自分のこと、というのはつまり、世界のことと同義でもあるのかもしれない。

最先端の技術が社会を明るくする。それは「みんなが幸せに生きる」ことを目指したひとつの手段なのだ。そしてそれを実現するのはポジティブでオープンな雰囲気。そして互いの価値観を認め合い、それぞれの幸せを追求する社内文化なのかもしれない。